祈りのライン 第二巻 海を越える祈り 第七話
〜祈りから琉球王国を読み解く〜
第七話 海を越える祈り
普天間宮を訪れてから、一つの景色が心に残っていました。
待合室に展示されていた女神の絵です。
第六話では、その女神の伝承と奥宮で感じた静寂について書きました。
けれど、旅を続けるうちに、あの女神は少しずつ違う景色を見せ始めます。
与那国島の本家には、今も普天間宮から分けていただいた香炉が受け継がれています。
沖縄では、香炉一つにつき一神。
だからこそ、一つの問いが生まれました。
なぜ、その香炉は与那国島にあるのだろう。
その問いを抱えながら、これまで歩いてきた場所を思い返しました。
南部には、琉球開闢の伝承が残る玉城城があります。
その先には、琉球王国最高の聖地である斎場御嶽。
さらに、その先には神の島・久高島があります。
王国最高の祈りもまた、海へ向かっていました。
一方、北部には北山王の居城だった今帰仁城があります。
そこから天底へ。
シマチスジノリ、御神歌、水神、洞穴。
そして、その先には古くから海へ開かれた運天港があります。
北山の祈りもまた、海へ向かっていました。
南でも。
北でも。
祈りは海へ向かっています。
では、その海の先には何があるのでしょうか。
そんなことを考えていた頃、私は都内にある媽祖廟を訪れました。
そこを管理されていたのは、台湾出身の女性でした。
私は尋ねました。
「沖縄の宜野湾にある普天間宮には、女神が祀られています。航海安全などの神として伝えられていますが、ご存じですか。」
女性は迷うことなく答えました。
「知っています。」
そして静かに続けました。
「あれは媽祖です。」
その言葉に、私は驚きました。
その場で答えが出たわけではありません。
けれど、それまで別々だった景色が、少しずつ重なり始めたのです。
普天間宮の女神。
海の向こうで信仰される媽祖。
その二つの物語の間に、与那国島の本家に受け継がれる普天間宮の香炉があります。
さらに思い浮かんだのは、今帰仁で出会った「天底」という地名でした。
私の一族には、「天底」の名を持つ先祖がいます。
その時は、まだその意味を知りませんでした。
そして、与那国島で一族から聞いた口伝があります。
私の一族の先祖には七人兄弟がいて、そのうち五人は大陸へ渡ったと伝えられています。
その話を聞いた時、一族の歴史が海の向こうへ続いていることを初めて知りました。
そこから想像を巡らせると、大陸と与那国島を行き来する人々の景色が少しずつ見えてきます。
船で海を渡るということは、祈りと共に航海していたのではないでしょうか。
その時、私の中で一つの景色がつながりました。
祈りのラインは道。
香炉は橋。
橋を渡っていたのは、人だけだったのでしょうか。
祈りも。
そして、物語も。
普天間宮の女神。
海の向こうの媽祖。
二つの物語は、与那国島の香炉で静かに交わったのではないでしょうか。
もちろん、これは史実として語られていることではありません。
旅を続ける中で、私に見えてきた一つの景色です。
その景色をさらに辿っていくと、今帰仁という場所が、また違った意味を持ち始めます。
その景色は、また次の旅で。
旅は、まだ始まったばかりです。
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旅の始まりとなる第一巻も、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。



